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2020.05.04

工藤写真館の昭和



新型コロナウィルスの騒動の中、
写真館も約二ヶ月休業状態で本当に大変です。
同じような境遇の方もいらっしゃれば、
生活維持に必要な職業の方や医療関係の方など、
様々な不安の中、
働いてらっしゃる方もいらっしゃいます。

行きたいところに行けない、
買いたいものが買えない、
食べたいものが食べれない、
会いたい人に会えない。
そして家族でこういった大変なことに巻き込まれると
フットワーク軽く動けないので、
あらゆることを想定して準備しないといけない。
子供の心身の成長に対する不安もある、
高齢になった両親の健康や感染対策、
もちろん生活や未来に対する不安、
職種によっては危険を顧みず仕事を続けないといけない、
色々なストレスを誰しもが抱えている状態です。

3月にフランスのマクロン大統領が演説で
「私たちは戦争状態にある」という言葉を使っていました。
街を破壊されたり、徴兵されたり、
殺戮がおこなわれたりということはもちろんないのですが、
遠い世界の話と思っていたものが、
徐々に迫ってきて、人の命、様々な機能を
不全にしていく感じは、
大変洋戦争で、日本に住む一般の人々が
経験したであろう、
3年9ヶ月も続く不安や苦しみと
重なるところもあるのかもしれない。
そう思いました。

今まで当たり前だったことができない、
子供たちにさせてあげれない、
これからを案じて、様々な選択にせまられる、
まさに自分の世代が経験したことのない、
戦争というのがこういったものだったのか
ほんの少しだけでも想像ができた気がします。

話は長くなりましたが、今回の作品は、
第二次世界大戦へと進む昭和のはじめ、
東京両国で写真館を営む写真師工藤哲郎とその一家を描いた物語です。
著者はお孫さんでノンフィクション作家の工藤美代子さん。

あとがきや解説の感想をそのまま拝借させていただきますが、
まさに本を読んだというより、観た、映像を観たような錯覚があります。
それは日常生活のディテールに据えて書かれた作品だからこそで、
主役の哲郎、妻のやす、5人の子供が
どのような性格でどのような人物だったのが本当に思い浮かぶ感じで、
当時の暮らしぶりや、どのようなことを思って
日々を過ごしていたのか。
読み終わった後でも残像が残っているようです。

遠い異国の戦いだった開戦直後から、
長男が出征し、後に三男も出征、
長女の婚期と重なる戦争。
徐々に都市部の空襲も激化していく中、
下の子供たちを疎開させる。
その後1945年3月10日の東京の下町大空襲で写真館は消失。
疎開先の青森で終戦を迎える。

下町で営む写真館の家族が
戦争によってここまで運命を翻弄されてしまう。

戦争がなければ全然違った未来があったのだろうな。
そして自分自身も親の立場として、
今の時勢と重なる部分もあって
どんどん作品にのめり込んでいきました。

今まで当たり前だったことができない、
子供たちにさせてあげれない、
未来が大きく翻弄される。
戦争が奪うものは人の命や街だけでないことを伝えています。

そして大きな大きな傷跡から、
復興していく工藤写真館の姿は、
今の自分にとっても明るいメッセージになりました。

前を向く気持ちを持つことができて、
守るものがあれば、喜んでもらいたい人がいれば、
人間はいつでも力強いものだと思います。